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動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか
2010/08/10/Tuesday
動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか 福岡 伸一 木楽舎 2009-02-17 |
先日、ある技術セミナーに参加した際に、パネリストとして登壇されていた分子生物学者の福岡伸一・青山学院大学教授が面白い人だったので、その著書を読んでみることにした。
福岡教授は、動的平衡の状態にある人間の記憶について以下のように説明している。
私たちが鮮烈に覚えている若い頃の記憶とは、何度も想起したことがある記憶のことである。あなたが何度もそれを思い出し、その都度いとおしみ、同時に改変してきた何かのことなのである。
ではいったい記憶とは何だろうか。細胞の中身は、絶え間のない流転にさらされているわけだから、そこに記憶を物質的に保持しておくことは不可能である。それはこれまで見てきたとおりだ。ならば記憶はどこにあるのか。
それはおそらく細胞の外側にある。正確にいえば、細胞と細胞とのあいだに。
私たちが今、この目で見ている世界はありのままの自然ではなく、加工され、デフォルメされているものなのだ。デフォルメしているのは脳の特殊な操作である。・・・ことさら差異を強調し、わざと不足を補って観察することが、・・・長い進化の途上、生き残るうえで有利だったからだ。
ずっと忘れていたにもかかわらず、回路の形はかつて作られた時と同じ星座となってほの暗い脳内に青白い光をほんの一瞬、発する。
たて、個々の神経細胞の中身のタンパク質分子が、合成と分解を受けてすっかり入れ替わっても、細胞と細胞とが形作る回路の形は保持される。
いや、その形すら長い年月のうちに少しずつ変容するかもしれない。しかし、おおよその星座のかたちはそのまま残る。
分子レベルにおいては、常に生まれ変わっている我々の身体において、忘れない記憶はどのように「記録」されているのか、その仕組みを垣間見ることができた。ただ、この分野は未知のことが多く、現在も研究が進んでいるようなので、今後の研究成果の発表に期待したい。
「体調や肌の調子が悪いのには何かが不足しているからだ。だからそれを補給しなければならない」―私たちはしばしばこのような欠乏の強迫観念にとらわれがちである。
最近、よく宣伝されているものにコラーゲンがある。コラーゲンを添加された食品の中には、ご丁寧にも「吸収しやすいように」わざわざ小さく細切れにされた「低分子化」コラーゲンというものまである。
コラーゲンは、細胞と細胞の間隙を満たすクッションの役割を果たす重要なタンパク質である。肌の張りはコラーゲンが支えているといってもよい。
ならば、コラーゲンを食べ物として外部からたくさん摂取すれば、衰えがちな肌の張りを取り戻すことができるだろうか。答えは端的に否である。
食品として摂取されたコラーゲンは消化管内で消化酵素の働きにより、ばらばらのアミノ酸に消化され吸収される。コラーゲンはあまり効率よく消化されないタンパク質である。消化できなかった部分は排泄されてしまう。
一方、吸収されたアミノ酸は血液に乗って全身に散らばっていく。そこで新しいタンパク質の合成材料になる。
しかし、コラーゲン由来のアミノ酸は、必ずしも体内のコラーゲンの原料とはならない。むしろほとんどコラーゲンにはならないと言ってよい。
なぜなら、コラーゲンを構成するアミノ酸はグリシン、プロリン、アラニンといった、どこにでもある、ありきたりなアミノ酸であり、あらゆる食品タンパク質から補給される。また、他のアミノ酸を作り替えることによって体内でも合成できる、つまり非・必須アミノ酸である。
もし、皮膚がコラーゲンを作り出したいときは、皮膚の細胞が血液中のアミノ酸を取り込んで必要量を合成するだけ。コラーゲン、あるいはそれを低分子化したものをいくら摂っても、それは体内のコラーゲンを補給することにはなりえないのである。
食べ物として摂取したタンパク質が、身体のどこかに届けられ、そこで不足するタンパク質を補う、という考え方はあまりに素人的な生命観である。
ついでに言うと、巷間には「コラーゲン配合」の化粧品まで氾濫しているが、コラーゲンが皮膚から吸収されることはありえない。分子生物学者の私としては「コラーゲン配合」と言われても「だからどうしたの?」としか応えようがない。
もしコラーゲン配合の化粧品で肌がツルツルになるなら、それはコラーゲンの働きによるものではなく、単に肌の皺をヒアウロン酸や尿素、グリセリンなどの保湿剤(ヌルヌル成分)で埋めたということである。
私たちがこのような健康幻想に取り憑かれる原因は何だろうか。そこには「身体の調子が悪いのは何か重要な栄養素が不足しているせいだ」という、不足・欠乏に対する強迫観念があるように思える。
そして、その背景には、生命をミクロな部品が組み合わさった機械仕掛けと捉える発想が抜き差しがたく私たちの生命観を支配していることが見て取れる。
健康を、強迫観念から解放し、等身大のライフ・スタイルとして取り戻すためには、私たちの思考を水路づけしてきた生命観と自然観のパラダイム・シフトが必要なのである。
この説明にも驚きを隠せなかった。これが本当であれば、巷に溢れかえっている健康商品・化粧商品などの位置付けはどのようになるのだろうか。
この福岡教授の考え方にはいろいろと異論があるようだが、福岡教授の説明を素直に聞いている限り、真実のような感じを受ける。
普通、ある種の生物に感染できる病原体は、別の種を宿主とすることができない。鍵が合わないからである。・・・ヒトの病気はヒトにうつる。ヒトを食べるということは、食べられるヒトの体内にいた病原体をそっくり自分の体内に移動させることである。その病原体はヒトの細胞に取りつく合鍵を持っているのだ。だから、ヒトはヒトを食べてはならない――。
この説明も面白かった。関心した。ヒト(生物)が自然と行っていること、本能的に行っていることにはやはり意味が存在するのだろう。
私たちの生命を構成している分子は、プラモデルのような静的なパーツではなく、例外なく絶え間ない分解と再構成のダイナミズムの中にあるという画期的な大発見がこのときなされたのだった。まったく比喩でなく、生命は行く川のごとく流れの中にあり、私たちが食べ続けなければならない理由は、この流れを止めないためだったのだ。そして、さらに重要なのは、この分子の流れが、流れながらも全体として秩序を維持するため、相互に関係性を保っているということだった。個体は、感覚としては外界と隔てられた実体として存在するように思える。しかし、ミクロのレベルでは、たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい「淀み」でしかないのである。
生体を構成している分子は、すべて高速で分解され、食物として摂取した分子に置き換えられている。・・・だから、私たちの身体は分子的な実体としては、数ヶ月前の自分とはまったく別物になっている。分子は環境からやってきて、一時、淀みとして私たちを作り出し、次の瞬間にはまた環境へと解き放たれていく。
これだけ機械社会になると、人間や生物の身体も機械論的に考えがちであるが、それを抑えるような考え方です。純粋な生物学者ならではの考え方といえるかもしれない。
新たなタンパク質の合成がある一方で、細胞は自分自身のタンパク質を常に分解して捨て去っている。・・・合成と分解との動的な平衡状態が「生きている」ということであり、生命とはそのバランスの上に成り立つ「効果」であるからだ。
ここで私たちは改めて「生命とは何か?」という問いに答えることができる。「生命とは動的な平衡状態にあるシステムである」という回答である。 そして、ここにはもう一つの重要な啓示がある。それは可変的でサスティナブルを特徴とする生命というシステムは、その物質的構造基盤、つまり構成分子そのものに依存しているのではなく、その流れがもたらす「効果」であるということだ。生命現象とは構造ではなく「効果」なのである。
生命とは、構造ではなく、効果である。至極納得です。例えば、小石も人間も、原子や分子が集まっているだけなのに、活動の有無が存在するのは、まさしく、構造にミソがあるのではなく、効果の部分に差異があるからなのです。
この説明は、私自身の生命観を大きく変えたように思います。
総じて、この本は読んでよかったです。久しぶりに刺激的な本に出会えた感じがします。
みなさんもぜひ読んでみてください。
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